荒川豊蔵は、桃山時代の志野の陶片を手がかりに、その制作技術の復興に取り組んだ陶芸家です。白い器の美しさだけでなく、土や釉薬、窯を研究し、失われていた技術を自分の制作へつなげた仕事に特徴があります。

テレビ東京『開運!なんでも鑑定団』では、2026年10月27日(火)20:54~21:55に荒川豊蔵の茶碗を取り上げる予定です。この記事では、鑑定価格ではなく、陶片の発見が持つ意味と、志野の見どころをまとめます。

一片の陶片が、志野の産地を知る手がかりになった

発見したのは、桃山時代の志野筍絵の陶片

豊蔵は1930年、現在の岐阜県可児市久々利大萱で、志野の筍絵茶碗の陶片を発見しました。陶片とは、割れた焼きもののかけらです。

欠けた器は、そのままでは道具として使えないかもしれません。しかし、土や釉薬、絵付けを調べれば、何がどのようにつくられたかを考える資料になります。豊蔵の発見は、志野が美濃で焼かれていたことを実証する重要な手がかりになりました。

「どこで焼いたか」から、「どう焼いたか」へ

当時、志野などの桃山陶は瀬戸で焼かれたと考えられていました。大萱で見つかった陶片は、その理解を見直すきっかけとなり、豊蔵自身も志野の再現を志します。

愛知県陶磁美術館の収蔵品解説では、豊蔵は1933年に同地で桃山時代と同式の窯を築き、再現に取り組んだとされています。発見で終わらず、制作の現場で確かめようとしたところに、この仕事の大きな意味がありそうです。

志野の白い肌は、土と釉薬と焼成から生まれる

器の土台となる「百草土」

志野は、美濃の百草土(もぐさつち)を使う伝統的な陶芸技法です。器の本体になる土を「胎土」といい、表面を覆う釉薬とは役割が異なります。

白い器といっても、磁器と同じ材料・工程でつくるわけではありません。まず、どんな土で形をつくるのかを知ると、器の厚みや表面の質感を見る手がかりになります。

長石を主とする釉薬が、柔らかな白い表情をつくる

釉薬は、器にかけて焼くことで表面の色や質感を生む材料です。志野には、長石を主体とする釉薬が使われます。

文化庁の志野の材料と肌合いの解説では、白い肌、柚子の皮を思わせる表面、部分的な緋色などが特徴に挙げられています。色だけでなく、光の当たり方や小さな凹凸にも目を向けると、見え方が変わりそうです。

絵付けと焼き上がりを、一緒に見る

志野には、文様のないものだけでなく、釉薬の下に鉄分を含む材料で文様を描くものもあります。絵の線と白い釉薬が重なることで、器の表情がつくられます。

「白ければ志野」「同じ色なら同じつくり方」と単純には言い切れません。形をつくる土、表面の釉薬、絵付け、窯で焼く工程を分けて考えると、似た器の違いも理解しやすくなります。

豊蔵の復興は、昔の器を写すだけではなかった

古い技術を研究しながら、自分の表現へつなげる

豊蔵は古窯跡や陶片を調べ、志野・瀬戸黒・黄瀬戸の再現に取り組みました。一方、できあがった作品には、豊蔵自身の造形や絵付けの工夫も加わっています。

たとえば、愛知県陶磁美術館が所蔵する「志野波に千鳥絵鉢」の作品解説では、千鳥の文様を掻き落としで表し、波を鉄絵で描いていることが分かります。技法を取り戻すことが、その先の新しい表現にもつながっているのです。

志野と瀬戸黒では、見どころとなる工程も違う

豊蔵は1955年に「志野」「瀬戸黒」の重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝に認定されました。これは、作品一つの値段ではなく、受け継ぐべき制作技術と、それを体現する仕事に関わる認定です。

瀬戸黒では、焼成中の茶碗を窯から引き出して急冷し、黒い色を得る「引き出し黒」の技術が知られています。同じ陶芸でも、白い肌の志野と黒い瀬戸黒では、表情を生む材料や工程に違いがあります。

見る視点志野瀬戸黒
表情の手がかり白い釉、肌合い、緋色や絵付け黒い釉の色と艶、器の形
技術を知る入口百草土、長石釉、成形と焼成焼成途中で引き出すことと急冷

この比較は鑑賞の入口であり、写真だけで作者や真贋を見分ける方法ではありません。番組に出る茶碗と、美術館で紹介される別の作品も、同じものとして扱わないことが大切です。

荒川豊蔵資料館では、作品と制作の場を結び付ける

陶片・作品・道具を、仕事のつながりとして見る

岐阜県可児市久々利柿下入会352番地にある荒川豊蔵資料館は、豊蔵の作品や収集した古陶磁器、出土陶片などを収蔵する施設です。敷地には公開された旧居や陶房もあります。

陶房には、制作に使われた道具、土、釉薬などが設えられています。作品の完成した姿と、材料や仕事場を結び付けて見ると、一つの器の背景をより具体的に考えられそうです。

開館時間と、当日の展示範囲を確認する

可児市の荒川豊蔵資料館の開館日・入館料では、開館時間は9:30~16:00、最終入館15:30です。通常は月曜日休館(祝日の場合は開館)で、祝日の翌日と年末年始も休館となります。

入館は一般210円の有料で、高校生以下は無料です。旧居・陶房の公開と資料館への入館は分けて確認し、展示替えによる臨時休館や、見たい作品の公開状況も来訪前に確かめましょう。

まとめ

荒川豊蔵の志野復興は、陶片を見つけたことを出発点に、土・釉薬・窯を研究し、自分の作品へとつなげた仕事です。志野の白い肌や絵付けも、その工程を知ると鑑賞の手がかりが増えます。

一片のかけらから制作の可能性を広げていく姿勢には、ものづくりの面白さを感じます。作品を見る機会には、値段だけでなく、形や肌合い、どんな技術で生まれたのかにも目を向けてみたいですね。