櫛野展正(くしの・のぶまさ)さんは、各地の表現者を取材し、執筆や展覧会の企画を通じて、その創作を紹介するキュレーターです。取り組みの一つが、高齢期にも独自の表現を続ける人たちに目を向けた「超老芸術(ちょうろうげいじゅつ)」です。

注目したいのは、櫛野さん自身の経歴を追うことよりも、ふだんの暮らしの中にある創作をどう見つけ、見る人へ伝えているかという点です。言葉の意味と作品の例から、その仕事を見ていきましょう。

「超老芸術」は、高齢期の独自の表現に目を向ける言葉

「高齢になってから始めた人」だけではない

「超老芸術」は櫛野さんがつくった言葉です。著書の出版社による説明では、高齢になってから、または高齢になってもなお、精力的に表現を続ける人たちを指しています。

始めた年齢だけでなく、続けている表現に目を向ける言葉です。若いころから描いたりつくったりしてきた人もいるため、「退職後に初めて芸術を始めた人」とだけ捉えると、少し狭くなってしまいます。

作品の上手さだけで判断しない見方

櫛野さんは、一般財団法人地域創造への寄稿で、作品の見た目だけでなく、つくる人にとって表現がどのような意味を持つかを伝えたいという考えを述べています。完成品の評価と、制作を続ける理由は、必ずしも同じではないという見方です。

鑑賞する際も、「上手かどうか」の前に、何を材料にし、どのような工夫を重ねているのかを見てみると、作品との距離が縮まるのではないでしょうか。

櫛野展正さんの仕事は、つくり手と見る人をつなぐこと

キュレーターは、作品をつくる人とは役割が違う

櫛野さんは、アーツカウンシルしずおかのチーフプログラム・ディレクターです。所属先の紹介によると、全国で取材を続けながら、執筆や展覧会の企画などを行っています。

今回の活動に即してキュレーターの仕事を説明すると、つくり手や作品を調べ、何をどう紹介するかを考え、鑑賞する機会へと結び付ける役割です。作品の作者と、作品を紹介する企画者を分けて見ると、櫛野さんの仕事が分かりやすくなります。

取材・展示・出版では、伝え方も変わる

櫛野さんの超老芸術の発掘と展示を振り返る本人の寄稿では、つくり手への取材や展覧会、鑑賞の場づくりがつながった活動として語られています。

取材は作品の背景を知る手がかりになり、展示は作品に向き合う機会となり、本は離れた場所でも作品や言葉に触れられる入口になります。この三つを分けて考えると、単に珍しい作品を集めるだけではない、紹介する仕事の広がりが見えてきそうです。

具体的な作品から分かる、創作の幅広さ

稲田泰樹さんは、街と巨大生物を描く絵画

稲田泰樹さんは、巨大な生物が街を襲う様子を描いた「クライシスシリーズ」を制作しています。アーツカウンシルしずおかの紹介では、仕事で描いてきた立体図面などの経験が、緻密な俯瞰図にも影響しているとされています。

俯瞰図とは、上の方から見下ろしたように対象を捉える図です。絵の題材だけでなく、街をどの方向から見せているかにも注目すると、描き方の特徴を味わえそうです。

杉村聡さんは、さまざまな姿の木工人形

杉村聡さんは、流木を使うモビールの制作などを経て、「木人(きびと)」と名付けた木工人形を制作しています。さまざまなポーズを取る人形が、同じくアーツカウンシルしずおかの作品紹介に掲載されています。

絵画と木工では、材料も見せ方も異なります。「超老芸術」は、同じ技法や同じ見た目の作品を集めた分類ではありません。つくり手ごとの工夫を見ていくことが、その幅広さを知る手がかりになりそうです。

これらの作品は、アーツカウンシルしずおかの超老芸術のつくり手・作品紹介から確認できます。作品画像と説明をあわせて読むと、文字だけでは伝わりにくい形や色の違いも分かります。

展覧会と著書から活動を知る

展覧会では、作品に触れる機会をつくる

2023年に静岡市のグランシップで開催された「超老芸術展」は、各地の作品を集めて紹介した取り組みです。過去の展覧会のため、現在も同じ会場で開催しているという意味ではありません。

作品を見るだけでなく、つくり手の説明に触れる機会があると、制作の背景も知ることができます。ただし、今後の展覧会やトークの開催・参加条件は、その都度、主催者の最新情報で確認するようにしましょう。

著書『超老芸術』は、作品と取材を一緒に読める

櫛野さんの著書『超老芸術』の内容と収録作品は、出版社の紹介で確認できます。本には25名のつくり手の作品とインタビューが、オールカラーで収録されています。

まず作品を眺め、そのあとに本人の言葉を読むという順番でも楽しめそうです。この記事は本の内容を網羅する紹介ではなく、活動を知る入口として取り上げています。

まとめ

櫛野展正さんが取り組む「超老芸術」の紹介は、高齢期の独自の創作を見つけ、取材・展示・出版を通じて社会へ伝える仕事です。絵画や木工など、材料も技法も違う作品を、つくり手ごとの表現として見ていくことが大切です。

いつもの暮らしの中にも、まだ知られていない創作があると思うと、作品を見る楽しみが広がるように感じます。まずは公式の作品紹介から気になる一人を選び、形や材料、工夫に目を向けてみてはいかがでしょうか。